2023年10月15日
韓国的[反日正義]
福島汚染水フクシマ オニョムスと連呼するニュース、メディア
 7月初旬から9月下旬まで自転車で韓国を一周した。テント積んでのキャンプ旅だったので市井の人々の率直な言葉を少なからず聞くことができたかと思う。ハングルは退職後に独学で始めた還暦の手習いなので些かお粗末ではあるが。
 当時韓国では連日TVのニュース番組で福島原発処理水海洋放出への反対運動、野党政治家のアジ演説、さまざまな団体の反対声明などを喧しく報道していた。違和感を覚えたのはどのTV局でも処理水汚染水オニョムスと表現していたことである。本来中立であるべきTV局が共に民主党李在明イ・ジェミョン氏のプロパガンダ演説に倣ってオニョムスと連呼。中国政府が福島汚染水フーダオ・ウランシュイと報道しているのと同じだ。偏向的な報道姿勢に疑問を感じた。
 7月初旬の韓国の世論調査では90%超が汚染水放出反対、汚染水放出による健康被害を懸念するという数字。メディアが野党と一緒になって福島汚染水放出反対の世論形を喚起していたのだ。
〔日本統治時代に建設された赤レンガのソウル駅は当時の威容を現在に伝える。旧総督府は忌まわしき植民地時代の象徴として破壊されたが、ソウル駅が破壊を免れた〕
中国韓国の専門家は福島原発処理水が全く安全と認識している
 7月6日。ソウルの宗廟の日本語ガイドツアーで放射能・放射線の日本人研究者S氏と一緒になった。S氏はソウルで開催された日中韓三カ国の研究者による学会に参加したばかり。
 福島処理水問題について両国の参加者からは一切発言がなかったとのこと。専門家の間では福島処理水の安全性については議論の余地がないほど明確なので話題にもならないとの解説。
 7月16日。全羅北道益山市の李氏朝鮮時代の地方の儒学校ヒャンキョで出会った高校2年の2人組。今年の夏休みヨルム・パンハクは来年冬の大学修学能力試験スヌンでの勝敗を決める大事な時期だと高校の先生からハッパをかけられていると苦笑。
 聡明な彼女たちは福島処理水反対の野党キャンペーンは政治的プロパガンダだと理解していた。他方でTV・新聞などで毎日福島汚染水に対する反対運動が報じられているので福島汚染水が有害と信じ込んでいた。日本の海産物は絶対に食べたくないし、彼女たちの母親は福島汚染水問題がニュースになってからは魚介類そのものを買わないとのこと。
 益山市近代歴史博物館に見学に来た女子高生グループ4人組は、「海洋放出反対」「福島汚染水は危険」「日本が安上がりの海洋放出を強行するのは許せない」と口を揃えた。他方で中国・韓国原発からの海洋放出は知らないと。
 筆者がIAEA報告書の説明をしていたら、博物館の解説員の元高校教師の女性が割って入って険しい表情で否定、「IAEAは日本政府からの賄賂と政治的圧力で日本に有利な報告書を捏造したのよ。本当に安全なら福島汚染水を日本の湖に貯めるはずです。それをしないのは有害だからです」と声高に主張。高校生たちも頷いていた。
 IAEA報告書は日本の賄賂と不当な圧力で捏造されたという妄言・デマはかなり広範に韓国社会に伝播されているようで韓国滞在中に再三聞かされた。8月10日に木浦で出会った政府の対外宣伝を制作している映像作家氏は「韓国人は反日運動の材料になるような情報はデマでも陰謀論でも信じる。反日が正しいという共通認識があるから韓国社会では反日運動に都合のよいデマや陰謀論が拡散され浸透し易い」と分析していた。
仕事に追われ報道内容を咀嚼する暇がない、他方で反対運動の同調圧力
 7月16日。韓国鉄道公社Korailに勤務する20代後半のエリート女性。福島処理水については漠然と不安を感じているが科学的根拠については知らないと。日々多忙でニュースも聞き流す程度なのでじっくり考えたことがないと。
 7月22日。全州の工芸品展示センターに勤務する女性は福島汚染水放出が命に係わる深刻な問題と懸念を表明。他方でやはり忙しくて科学的根拠は分からないと。しかし韓国国民が大反対しているから自分も反対であるとして話を打ち切った。人目を気にしておりそれ以上話したくない様子。
 彼女の雰囲気からは福島処理水が安全と公言できない韓国社会の同調圧力を感じた。4年前に半導体製造材料の日本の対韓輸出規制に反発して韓国社会で日本製品不買運動が展開された。当時は周囲の目を気にして日本のビールが飲めないとか、日本への旅行をキャンセルしたとか強烈な同調圧力が社会全体を席捲していたが、福島処理水問題でも同様なのだ。
〔全羅北道の地方都市の益山駅前広場の慰安婦少女像。例の疑惑が取り沙汰されている元慰安婦支援団体が呼びかけ、各地の地元市民有志の寄付により同様の慰安婦像が津々浦々に建てられている〕
知日派知識人が指摘する反日が絶対正義という国民感情
 7月27日。南原で早稲田大学に留学した論客のK氏と遭遇。K氏によると韓国人は李承晩以来政治家に騙され続けてきたので政府・政権の言葉を信用しない。
 そして植民地時代から現在に至るまで国家としての日本及び日本政府は韓国民にとり常に否定するべき絶対悪との説明。日本人や日本文化は大好きという韓国人も日本国家・日本政府に抱く感情は憎悪と不信という。7月18日に論山市で出会った高校の日本語教師の40代後半の韓国女性も全く同様の反日正義の国民感情の根深さを語っていたことを思い出した。
 K氏は日本政府を支持することは親日派チンイルパとして韓国では唾棄すべき軽蔑の対象になるという。ハングルで親日派は日本の植民地支配に協力した売国奴を意味する。親日派は中国における対日協力者の漢奸、フランスのナチス協力者のコラボラトゥールと同義語なのだ。
 現在でも政治家や著名人が日本政府の政策を支持すれば親日派ばいこくどという忌まわしいレッテルを貼られ政治生命や社会的名声を失う。韓国の原子力の専門家や科学者が福島処理水について沈黙を守っているのも福島処理水について科学者としての良心から安全性を公言すれば韓国社会から親日派のレッテルを貼られ嵐のようなバッシングを被るからという。
 そして慰安婦問題・徴用工問題・福島汚染水問題はすべて同一線上にあると断言。とにかく日本政府がやることを全て疑い否定するのが韓国人の正義という。
なぜ尹大統領は国民の支持を得られないのか
 K氏によると徴用工問題で譲歩して福島汚染水放出を容認した尹大統領の政治決断は韓国民の正義感を踏み躙ったものであり国辱であるとフツウの韓国人は激怒している。他方で韓国人は日本政府や日本人が尹大統領を高く評価していることを良く知っている。
 尹大統領の支持率が30%前後(不支持率50%超)と低迷しているのは当然とのK氏の解説。K氏は「韓国民のこうした非合理的な正義感を理解しないと福島処理水問題への韓国民の反応を日本政府及び日本人は正しく認識できないだろう」と結んだ。
アメリカ人英語教師カップルの見た韓国人の福島原発処理水ラプソディー
 7月30日。光州市内の公園で米国人カップルと歓談。彼らは光州市郊外の小学校分校で英語の補助教員をしている。来韓1年半。韓国は同調圧力が強い不思議な社会だと感想を漏らした。例えば小学校では服装は自由なのに大半の生徒が黒のTシャツを着て登校するとか。また韓国の若い女性は同じような化粧をしているので見分けがつかないとか。
 福島処理水に対する余りにも感情的too much emotionalでヒステリックな反対運動は理解不能でとても先進国とは思えないと語った。デマやプロパガンダに容易に流される国民性は非常に危険dangerousと眉をひそめた。
反日正義ジジイの福島汚染水反対と対馬の歴史的領有権
 7月28日。全羅北道のコチジャンの名産地である淳昌の東屋で5~6人の地元中高年男女に囲まれて雑談しながら夕涼みをしていた。
 そのうち75歳の地元の男性が福島処理水絶対反対と言い出した。話しながら次第に興奮して日本は慰安婦問題、徴用工問題で謝罪も賠償もせずに今度は福島汚染水で問題を引き起こしていると口角泡を飛ばして激高。独島ドクトたけしまだけでなく対馬テマドも歴史的に韓国の領土だと繰り返した。激昂してまくし立てるハングルは殆ど聞き取れないが固有名詞を何度も繰り返すので彼の主張は理解できた。
 他の地元民は反日ジジイの発言を黙って聞いていたが、雰囲気から反日ジジイの怒声・罵声に心中喝采している様子が窺えた。反日正義の厚い壁を肌身に実感した夕べであった。
済州島出身の元財閥企業グループ経営者の冷静な深慮
 8月22日。済州島南部の海辺の公園で2人組の60代後半の男性から声を掛けられた。2人は地元出身の幼馴染。1人は地元の網元で漁業組合の幹部らしい。網元曰く「この友達は大手財閥グループの経営者で最近引退して地元に戻ってきた。小学生の時から優秀な子供だったよ」とハングルで紹介。韓国の濁酒であるマッコリを飲みながら3人で歓談。
 そのうち元経営者が福島原発処理水について日本人はどう考えているかとズバリ聞いてきた。難しい話なので英語で安全性や日本人が福島産農水産物をフツウに食べていることを説明した。
 元経営者は慎重に細部を確認しながら筆者の話を段落ごとに区切ってハングルで網元に伝えた。網元は興味深そうに聞いて大きく頷く。そしてたまに網元が質問する。この繰り返しである。
 元経営者は自分の意見は一切述べずに筆者と網元の対話を丁寧に通訳した。さらに慰安婦問題、徴用工問題と元経営者は話題を広げたが、彼は一貫として中立かつ客観的な通訳に徹していた。しばらくして筆者は元経営者が筆者の述べる見解・論点については日本や海外からの情報で以前から認識していたらしいことに気づいた。そして日韓諸問題に関して筆者の見解を概ね是としているようだった。
 さすがに財閥グループのトップともなると語学も含め海外事情にも精通していると感嘆。そして自分の意見を封じて日本人の率直な見解を地元の有力者の網元との対話を通じて引き出すという姿勢に深慮と奥深さを感じた。韓国の保守本流の国際派知識人の叡智に触れることができた夕べであった。
外国航路の元船長の福島処理水への判断
 8月25日。奇しくも福島処理水放出開始日の朝、麗水の海洋博覧会記念公園で商船会社の元船長と出会った。キャプテン・リムは現在でも週に何回か麗水港のパイロットを勤めているが、年に数回は海外遠征してトレッキングするのが趣味と。今年秋はヨーロッパアルプス、来年はアンナプルナを予定していた。
 福島処理水について聞かれたので簡単に説明したら、「科学的に国際安全基準を満たしていて、他に現実的な解決法がないなら仕方のないことですね」と満足そうに頷いた。国際経験豊富で経済的に余裕があり健康にも恵まれているキャプテン・リムは反日正義という狭小なドグマを超越しており、科学的合理性があるなら処理水放出に反対する理由はないのであろう。
婦人服製造販売会社の75歳の女社長の政治感覚
 9月14日。ソウル近郊の河南市。ある大きな婦人洋装店の軒下で雨宿りたら、中から恰幅のよい中高年女性が手招きしている。彼女は婦人服製造卸会社の社長で御年75歳。若いころ米軍相手の商売でもやっていたらしくブロークンなカタコト英語を話す。ハングルと英語のチャンポンでスムーズに意思疎通できる。
 韓国の政治家はレベルが低いとこき下ろし、特に最大野党党首の李在明イ・ジェミョンは韓国の恥さらしだと罵倒。福島処理水で非科学的発言を国内外で繰り返してIAEAからは相手にされず、挙句の果てはハンストして同情を買おうとしていると批判。
 当時は李在明を巡る数々の疑惑が明らかになり逮捕寸前という状況であり、福島処理水を巡る反対運動も些か下火になってきたと思えた時期であった。彼女にとり婦人服の売上高を左右する金利と景気動向が喫緊の政治課題であり、デマや妄言で社会の関心を得ようとする野党は許せないとのこと。
 韓国民が反日正義というドグマを一旦脇に置いて、科学的知見を理解して冷静に客観的に福島処理水問題を考えることを切に望んだ。
2023年10月22日
韓国社会に乱立する教会の信者争奪戦
合同結婚式から二十数年、地方都市で家族と幸せに暮らす日本女性
〔住宅街の教会。この教会から半径100メートル以内に4つの教会があった〕
 7月中旬、日本人女性と知り合った。驚いたことに彼女は二十数年前に合同結婚式で現在の夫となる韓国人男性と結婚したという旧統一教会(現世界統一平和家庭連合)の信者であった。同じ信仰を持つ夫との間に3人の子どもを育て幸せな家庭を築いていた。そして夫婦は現在も信仰を守っているという。経済的にも比較的に恵まれた生活をしているようだ。
 日本での旧統一教会を巡る批判はニュースで聞いているが、韓国内では世界平和統一家庭連合に対して批判的な動きはないという。ちなみに筆者自身韓国滞在中にキリスト教会一般については後述するように、さまざまな批判や疑問を聞いたが、世界平和統一家庭連合について特別に問題視する意見はなかった。筆者の印象ではキリスト教会の一つとして韓国社会では容認されているようだった。
 彼女の実家では誰も旧統一教会の信者はおらず、自身は学生時代から人生について考えるうちに旧統一教会に興味を抱いたという。また韓国人の旦那さんも家族には信者がおらず自分の意志で入信したという。
第二次大戦後に世界で最もキリスト教布教が成功した韓国
 カトリック教会の総本山であるバチカンが第二次大戦後に最も布教が成功した国として韓国を挙げていたことを思い出した。2015年夏にスペイン巡礼街道を歩いていた時に巡礼宿で知り合った全羅北道全州市の教会の朴牧師モクサは、韓国民の40%近くがキリスト教徒で仏教徒が30%程度、キリスト教徒のうちプロテスタントが6割でカトリックが4割と語っていた。朝鮮戦争後に米国など海外の教団の布教によりキリスト教徒が増えたという。
 他方で韓国統計庁2015ねんによると仏教15%、プロテスタント19%、カトリック8%とのこと。朴牧師の数字とかなり乖離がある。今回の旅行中に現地の人から聞いた数字はむしろ朴牧師の認識に近かった。ちなみに宗教ではないが、筆者の印象では儒教が現在でも広く社会規範や生活習慣のなかに生きていると感じた。
韓国は全国津々浦々キリスト教会だらけ、なぜ?
 9年前の釜山起点の自転車旅行でも今回の旅でも韓国では、都市はおろか田舎でもキリスト教会だらけでしかも立派で豪華すぎると違和感を覚えた。25年前、出張の合間に訪れたパキスタンのインダス文明の古代遺跡モヘンジョダロで、単独世界一周旅行途上の26歳のソウル出身の聡明な韓国女性に遭遇した。
 なぜ韓国に教会が多いのか彼女の説明は明快だった。第一に教会は免税特典が広く、成金や商人が税金逃れや財産隠しに教会を設立している。第二に十字架を屋根に掲げることで北朝鮮の攻撃目標にならない。第三に牧師になるのに特別の資格・経験は問われないので誰でも教会を設立できる。25年後の現在ではどうなのだろうか?
 7月18日。論山市の東屋に韓国人一家が雨宿りに飛び込んできた。奥さんは高校で日本語教師をしているという。彼女によると旧統一教会は韓国では少し変わった教団と世間に思われている程度で韓国社会では特に問題になっていない。
 むしろキリスト教会すべてが金権体質なのが問題であると痛烈に批判。韓国にやたらと教会が多くて建物が分不相応に立派なのは、教会の免税特権と信者から収入の1割を徴収する制度だという。聖書に「収穫の十分の一は神に捧げるべし」と書いてあるそうだ。韓国では『庭に十字架を立てれば2年で教会が建つ』、すなわち教会を開業すれば2年で立派な教会を建てられると言われているという。それほど儲かる業界らしい。
 高校の世界史の教科書を思い出した。中世の教会権力の源泉として十分の一税が農民や市民を縛っていたが、フランス革命によって教会の課税権は剥奪されて、政教分離が近代社会の原則となったという歴史上の大変革だ。なんと現代韓国ではキリスト教会は中世ヨーロッパと変わらないのだ。
 7月20日。日本人女性と知り合った。彼女はキリスト教徒ではないが、十分の一の寄付については余りにも韓国では当然でフツウのことなので、今まで疑問を感じたこともなかったという。日本や欧米でも同じように信者は寄付しているものだと思い込んでいたという。
 彼女によれば毎月収入の10%を徴収するだけでなく、教会は祭事・行事・建物修繕にかこつけて頻繁に寄付を募るという。教会は信者の保有資産・収入に応じて寄付額を割り当て未納者・滞納者は掲示板に張り出すなどして督促するという。
 7月30日。光州市内で会った米国人の英語補助教員のカップルであるマイクとパティ―の2人は「そもそも収入の10%を徴収すること自体が間違っている。アメリカでは聞いたことがない」と韓国の教会の前近代的運営を批判した。なぜ韓国の人々はそんな教会に通い続けるのか不思議に感じた。
知日派知識人に聞く 韓国におけるキリスト教の歴史的背景と現在の信者獲得競争
〔仏教は現代韓国ではどうも影が薄い印象。観光資源として成り立っている寺はそれなりに立派であるが。近年はヘルシー志向の波に乗り精進料理をウリにする仏閣も多い〕
 7月27日。ソウルから故郷にUターンした日本の大学に留学経験のある論客K氏にキリスト教会について見解を伺った。
 K氏は現代韓国のキリスト教会の問題を考察するには李氏朝鮮王朝を理解する必要があると指摘。14世紀末李成桂に始まる李氏朝鮮王朝は儒学・儒教を支配原理として王朝を建国した。前身の高麗王朝が仏教を厚く保護したことに対抗して仏教を排斥して儒学を保護したという流れである。
 儒教に基づく身分制度により主従関係を明確にして王家の下に両班という貴族階級を文官・武官として官僚組織を形成した。こうした徹底した身分制度の下で農民など庶民は下層身分として差別された。
 李氏朝鮮の支配体制が欧米列強や日本の外圧により揺らいでくると欧米の教団によるキリスト教の布教が広がった。すべての人間は平等であると説くキリスト教は身分制度に苦しむ民衆から歓迎された。他方で李氏朝鮮は王朝末期まで儒教に反するとしてキリスト教を禁止して徳川幕府同様の踏み絵を実施した。
 日本植民地体制でもキリスト教団は伝統的な地場信仰の現世利益を教義に取り込んで庶民の信者を増やしていった。朝鮮戦争で伝統的価値観が崩壊した後に欧米の教団が食料・医療・病院という福祉を携えて布教した。特に米国のプロテスタント系教団が資金力を背景に活発に活動して信者を増やした。
高度成長期の韓国人教会の台頭から少子高齢化と若者の教会離れへ
 高度成長期に入ると外国人宣教師に代わって韓国人牧師が教会運営を担うようになった。韓国人牧師は聖書の言葉を利用して信者から収入の10%を徴収して、他方で免税特権を利用して蓄財した。こうして信者を拡大して教会は外見的には立派になった。
 ところが近年急激な少子高齢化の進行で若者人口が減少。MZ世代の台頭により価値観の乖離から若者の教会離れが顕著となってきた。こうして現在では教会同士の信者の争奪戦が激化しているとK氏は指摘した。
 現に筆者も南原や済州島など地方都市で宣教活動している人々から「仏教徒でも構いません。ぜひ今夕の集会に来てください。人生が変わりますよ」「明日の日曜礼拝に遊びに来てください。もし無理ならメルアドとお名前をお願いします」などと熱心に勧誘を受けた。
 K氏はキリスト教徒でありソウルでは教会に通っていた。故郷の南原に戻ってきたときに小さな教会に短期間通ったが牧師の拝金主義に疑問を感じて教会と縁を切った。例えば牧師は退職時に家・自家用車などをもらえる。牧師の年金は一般の年金受給額に比較して約2倍という高額らしい。
 K氏は教会に属さないキリスト教徒であるという。欧米同様に韓国も若者を中心にキリスト教徒の教会離れが進んでいるという。
2023年10月29日
70歳過ぎても働く韓国の老人、段ボール拾いで糊口を凌ぐ貧労
韓国の津々浦々にある東屋は地元老人のコミニュティー・センター
〔POSCOの最新鋭の光陽製鉄所近くの河口の東屋。 光陽製鉄所が打ち上げる花火が見えた〕
 韓国を自転車旅行していると人が住んでいるところには必ず東屋があることに気づく。地域住民の憩いの場として町内会や村落会が建てた東屋に三々五々と中高年が集まりおしゃべりしながらお茶をしている。夕暮れ時になるとビールや濁り酒マッコリなどを飲みながら花札賭博する中高年男性の溜り場になっていることもある。東屋は韓国庶民の身近なコミュニティー・センターである。
 自転車キャンプ旅の大敵は雨である。テント・寝袋・エアーマットなどが少しでも濡れてしまうと重くなる。湿った寝袋やエアーマットで眠るのは最悪である。雨期や長雨の時期は一旦濡れると乾かせないのでテント設営場所の選定は死活問題である。
 屋根の大きな東屋は降雨が防げるし、高床なのでテントに地面から雨水が浸水する恐れもない。それゆえ毎日夕刻になると東屋を探して自転車を走らせていたので韓国の東屋事情にはかなり精通していると自負する。
〔漢江の河川敷のパークゴルフ場。パークゴルフは中高年に大人気で夜明け前に自家用車で集まってくる。夜明けから涼しい9時ころまでプレーする〕
知識人に聞く韓国の老後事情、地方の老人のほうが幸福
 7月27日。全羅北道の南原市で日韓両国の諸事情に精通するK氏から韓国の老人福祉について話を聞いた。韓国では経済活動全般で人手不足が深刻であるが、介護の分野では外国人労働者を導入するという動きはないという。一つには介護関係の賃金水準が他の業種に比較してそれほど悪くないという背景があるという。ちなみにネット情報では韓国の介護職平均月給34万7000円、平均時給1670円14,153ウォンとある。
 そしてソウルなどの大都市と地方ではかなり事情が異なるという。大都市ではそもそも人手不足が深刻で独居老人にまで手が回らない。都市部では介護の仕事は若い人には敬遠されるので50~60歳くらいの中年女性が担い手の中心になっているという。
 韓国は伝統的儒教の影響で看取るまで老親を自宅で介護するのが当然であったが、都市化・核家族化により大きく変わってきたという。都市部では日本同様に老人のケアはデイサービスから始まり、訪問介護、そして最終的には老人ホームへの入居に移行してゆくのが現在では一般的という。
 老人ホームは公立と私立があるが公立は利用料金が安い代わりにサービス水準が劣り、巷間公立老人ホームに入れば2年であの世に行くと言われているとのこと。
 一般に都市部より田舎の老人のほうが元気で幸福度が高いという。地域のコミュニティーで一緒に遊ぶ昔からの仲間がいるからだ。こうした仲間と上記のような東屋や集落会館マウル・フェグアンで時間を過ごす。集落会館は行政組織の末端の役割も担っており政府から地元自治体経由で集落会館に補助金が交付される。食事会や各種行事に補助金が活用される。筆者も自転車で走りながら各地の集落会館で冷水をもらったり、トイレを借りたり、酷暑の日中にエアコンで涼むために度々お邪魔した。
 会館よりも大きな施設として老人福祉会館がある。各集落から無料バスで老人福祉会館に送迎している自治体もある。老人福祉会館では各種の老人の趣味のクラブが活動しており、色々な習い事や健康増進のプログラムが提供される。日本の市町村の老人福祉クラブと似たような役割を果たしているようだ。
和順の介護付き老人ホーム
〔和順の東屋にお一人様テント設営。右側のグレーのカバーで覆われているのがちびチャリ。夜中にパトカーが来て若い2人の警官が筆者の安否確認してからスマホの翻訳を見ながら日本語で「ゆっくりおやすみください」と最敬礼した。やはり韓国の警察は素晴らしい〕
 8月3日。全羅南道の和順は世界遺産に登録された支石墓群コインドルがある地方都市。和順の郊外に介護付き老人ホームがあった。コロナ対策で中には入れなかったので玄関で話を聞いた。
 施設長はアラフォーの女性。現在入居者は50人。介護職員は20~30代の若手の男女が12人、40~50代の女性が8人。その他に調理や清掃の職員・アルバイトがいるという。介護職員は年齢構成のバランスが取れており、行き届いたサービスが提供できていると自負しているとのこと。外国人女性の導入は言葉や文化の違いの問題もありありえないと言下に否定した。
 ちょうど午後のプログラムが始まった。音楽に合わせて体を動かすというプログラムには25人くらいが参加していた。ロビーには入居者が作った造花がボードに飾られており、建物は新しくはないが室内は清掃が行き届き良く整理整頓されているという印象。
 実母が入居している東京近郊の介護施設では常に介護スタッフ不足で退職者が多く、頻繁に担当が変わり、施設長ですら気ぜわしく走り回っている状況と比較してしまった。
〔江華島の郷校(李氏朝鮮時代の地域の儒学の学校)の秋の例大祭。儒教の伝統は現在に引き継がれているが参加者は中高年ばかりだ。儒教は「親に孝」と説くが親を自宅で最期まで看取るのは稀だ〕
論客の事業家に聞く貧労の生活実態
〔和順の老人ホーム。ハングルで老人保養院ノイン・ポヤンウォンと看板にある〕
 9月13日。折からの大雨。ソウル郊外の河南市の幹線道路沿いのコンビニでランチ。雨宿りがてらコンビニのオーナーの一族であるP氏と歓談。
 P氏は英語が上手い。子供のころ実家が商売をしていたので時間つぶしにラジオで駐留米軍放送を聞いて英語を覚え、学生時代に米国留学したという。現在は自分でいくつか事業を展開しているという論客である。
 幹線道路沿いのコンビニは繁盛店であり毎日大量の廃棄段ボールが出る。近隣の老人が毎日この段ボールを集めに朝夕来るという。P氏によると段ボール集めは韓国の悲惨な老後のシンボルであるという。
 ちなみに、少し古いが2021年の韓国統計庁の調査によると韓国では65歳~79歳の4割強が就業している。就業の最大の理由は生活費の補填。60~79歳の年金受給者の割合は65%。受給者の月間平均受給額は64万ウォン75,000えん。物価が日本よりも高い韓国では年金だけで生活するのは不可能という水準である。
 年金受給者でも元公務員や大企業従業員などは生活に支障がないが、元零細企業従業員や元自営業など相当数の老人は月20万ウォン=24,000えん以下という。
清潔な韓国の公共トイレは老人たちにより維持管理されている
〔サイクリングロードの休憩所とトイレ。清潔に管理されている〕
 80日間韓国を自転車旅行して感心したのは公共トイレである。筆者の個人的感想であるが、平均して日本の公園のトイレより清潔でよく管理されている。ニュージーランドと比較しても韓国の公共トイレに軍配が上がるレベルだ。
 7月17日・18日。雨のため忠清南道論山市の灌燭寺近くの公園の東屋にテントを設営して2泊した。トイレが清潔でお湯も出たので髪をシャンプーして髭を剃った。さっぱりして東屋に戻ると自転車に乗った男性が声をかけてきた。
 彼は75歳で近所に住んでいるという。自転車にスピーカーを付けて韓国演歌を聞きながら走ってきた。飄々とした御仁で筆者のテントやキャンプ用品についてあれこれ質問。それから公共トイレに向かい、いきなりホースとデッキブラシで掃除を始めた。彼は自治体から委託を受けた清掃係りだったのだ。翌日も同様に早朝に自転車でふらりと現われ清掃して帰って行った。
 各地の公共トイレにお世話になったが清掃人は60~70代と思われる世代が大半。男女の割合は概ね1:4くらいで女性が多かった。前述の韓国統計庁の数字による65~79歳の4割超が就業しているというが公共トイレの清掃のように短時間の就労も含まれているのだろう。
夕暮れに段ボールを運ぶ老人の群れ
 上述のP氏によると韓国では段ボール紙コルパンジを回収して業者に持ち込み換金する段ボール拾いが貧しい老人の現金収入を得る手段として全国的に広く行われている。日本でホームレスの人たちがアルミ飲料缶を集めて現金収入を得ているのと同じ構図のようだ。
 P氏の話を聞いてから少し注意して自転車を走らせていると、確かに早朝や夕刻に段ボール拾いの老人を頻繁に見かける。男女別ではほぼ半々くらいだ。古びた手押し車や錆びたリヤカーに段ボールを載せてのろのろ移動している。腰が曲がって歩くのもやっとという老人も少なくない。大雨の日でもビニールで段ボールを覆って運んでいる。
 9月14日。金浦空港から20キロくらい北上した市街区の外れの日暮れ時。夕闇が迫る中、とぼとぼと段ボールを運ぶ老人たちの姿が薄暗い街路灯のもと点々と連なっていた。彼らは産業廃棄物や資源ゴミの回収業者の集積所に向かっていたのだ。集積所では裸電球の下で業者の男が段ボールの重さを計っては老人に現金を手渡していた。
 韓国の老人を取り巻く状況は驚くほど日本と共通点が多いように思った。両国の専門家が大いに交流して老人福祉の諸制度を改善することを望む次第である。
2023年11月5日
出生率0・78、超少子化韓国を覆う閉塞感と外国人妻
先進国のなかでもダントツ最低、韓国の合計特殊出生率
 2022年の韓国の出生率は0.78。日本でさえ2022年は1.26であり、少し古いが2020年のOECDの平均出生率は1.59である。いかに韓国の出生率が異常に低いか一目瞭然だ。
 2014年に海外放浪を開始以来これまで世界各地で頻繁に韓国の若者と交流してきた。男女問わず韓国の若者が嘆くのが韓国社会の生き辛さである。苛烈な競争社会、就職難、序列社会、重い家族制度、若年層の高失業率などなど。祖国を捨てて米国、カナダ、オーストラリア等へ留学&移住を希望する数多の韓国の若者。
〔黄海に浮か絶海の孤島、紅島は人口500人弱。島の小学校の校庭は芝生のサッカーグランド、アンツーカーのトラック。韓国では都市部も田舎も小学校・中学校・高校は芝生とアンツーカーが標準 仕様。東京近郊の孫が通う小学校では砂埃のなか運動会をしていた。日本は負けている?〕
韓国社会では少数派の勝ち組女性の人生設計
 7月20日。益山市駅前のカフェで出会った20代後半の女性は韓国鉄道公社に勤務するエリート。2年前に半導体技術者の夫と結婚してソウル市内の高層マンションアパト住まい。
 8月に休暇を取り夫の欧州出張に同行。アムステルダムのゴッホ美術館に行きたがったが事前予約制で滞在中に予約が取れなかったと残念がっていた。彼女は美人で幅広い教養もあり旦那もエリートという韓国社会では絵にかいたような勝ち組の1人だろう。
 彼女によるとやはり結婚しない友人は多いという。学歴のある女性は結婚よりもキャリアを優先する傾向があり、キャリアを犠牲にしてまで結婚したくないという価値観がキャリア女性では一般的という。
 韓国でも育休制度が導入されてきて、韓国鉄道公社では2年間の育休制度があるので安心して子供を育てられると。やはり2人くらい子供が欲しいという。日本と同様に大手企業勤務で育休制度が充実していればフツウに2人くらい出産するという人生設計が可能になるようだ。
〔カフェで乗務予定の列車を待っていたエリート女性と、福島原発からゴッホのひまわりに至るまで森羅万象を二時間にわたり意見交換。〕
フツウの大卒女子が考える少子化の要因
 全州の観光施設に勤務する25歳の女性は全州市の私立大学を卒業。就職難から地元の観光施設で働いているがソウルの大手企業に比較して給料も低く将来の展望も開けないと嘆いた。
 十分な貯蓄もできずお金がないから結婚、子育てが不安というのが一般的な20代、30代の現状であるという。韓国は国家としては先進国になったが若年失業率が高くフツウの若者はお金がないので明るい未来が見えない。
 さらに韓国では人々は社会、世間、他人の目を気にしながら生きている。収入、学歴、資産などで『お互いに相手を格付けする』息苦しい社会と吐露した。
少子化の影響が顕著な学校教育現場
〔全州市の郊外の小学校。左側に新築の体育館とプールがある。韓国の小学校は外壁がカラフルであり日本と比べ校庭が格段に広い〕
 7月25日。全州中心地から約20キロ南の山間部。幹線道路沿いに新しい立派な小学校があった。大きな体育館やプールもある。近隣の老人によると過疎化と少子化で二つの小学校を合併して新しい校舎を建てた。ところが現在では全校生徒30人足らず。他方で公務員の教職員は減らせないので30人もいると嘆いた。
 7月30日。光州市内の公園で米国人カップルに会った。2人は光州市内からバスで1時間の距離にある農村部の小学校分校で英語の補助教員をしている。2人は週に21コマの英語の授業を受け持っている。
 分校は1学年2~3人なので複式学級。近々統廃合される可能性が高く同僚の韓国人教師は処遇がどうなるか戦々恐々としているという。
やり手の起業家が分析する少子化の背景
〔大日本帝国植民地時代に細川家の番頭が住んでいた日本家屋。収穫されたコメは近くの春浦駅から鉄道で港へ。そこから大阪市場に輸送された。朝鮮支配は日帝資本による収奪の歴史と韓国の教科書に書かれているらしいが、農業については史実であろう。〕
 7月21日。春浦は益山市の郊外に位置し戦前から米作が盛んで日本統治時代は日本の投資家が不在地主として所有する水田が広がっていた。細川元首相の祖父はそうした投資家の1人であったという。現地の広大な水田経営は日本人の番頭が采配を振るっていた。J氏は番頭の旧日本住宅を買い取り、敷地の一部でカフェやゲストハウスを経営している。J氏は40代後半。益山市中心部で育ちソウルの大学を卒業して長らくソウルの財閥系企業に勤務していたが故郷で起業するためUターンしたという経歴。
 J氏によると韓国では政治不信が根深い。朴槿恵、文在民、尹錫悦と大統領が交代するたびに政策が大きく変わり、前政権の政策は否定される。継続的に安定した政治が期待できないから安心して将来設計ができない。
 他方で多くの若者が海外旅行を通じて欧米の社会を知ることで価値観が多様化した。従来の結婚して家族を作るという人生設計が色褪せたものに思えるようになった。結婚・子育てに金や時間や労力を費やすことで人生を無駄にしたくないと考える20代、30代が主流になってきた。つまり自分の人生を楽しむという風潮。
 同時に若者の大半が大卒となり、高収入で自己実現できる良い仕事を得るのは至難な状況から結婚・出産が経済的に難しくなっていることが追い打ちをかけていると分析。
 J氏自身も息子が1人いるが2人目は望まなかった。J氏夫婦も時間とお金を2人目の子育て以外に使うという選択をしたのだ。
知日派知識人の世代論 『MZ世代は韓国を変える…少子化は避けられない』
 ソウルから南原ナムウォンにUターンしたK氏は日本の大学に留学した知日派知識人。韓国ではM世代1981~1996年生まれ、Z世代1997~2010年生まれが社会を大きく変えているという。
 MZ世代は自分を犠牲にして社会・家族の一員として認められるよりも自分個人の人生を楽しむのが当然という価値観。結婚という法的・社会的枠組みに縛られることを嫌う。
 『結婚はしたくないけど恋愛はしたい』という理由から同棲するというカップルが増加。少し前までは韓国社会では結婚を前提に交際するという厳然とした社会規範があった。しかし海外旅行やインターネットで欧米の個人主義的で自由なライフスタイルに触れて価値観が変わった。K氏の姪も外国人と同棲しており親族は困惑し将来を心配しているという。
 職業観も変化しており上司や職場風土に忖度しない。職場でも自分が理解できないことや納得できないことは拒否する。こうしたMZ世代の価値観を理解せずに頭ごなしに旧来の価値観を押し付けようとする上司や経営者をコンデくそオヤジと呼んで馬鹿にするという。
 K氏はこうしたMZ世代が韓国の硬直した閉塞社会を変える力になると期待した。他方でMZ世代の台頭により少子化は益々進み、政策的特効薬はないと断言。
地方の農家にお嫁が来ない
 一昔前の日本のように韓国の地方農村では嫁不足が深刻だ。上述のK氏によるとベトナム、フィリピン、カンボジアなどアジア各地からブローカー経由で外国人妻が来韓している。中国人妻は減ったがそれでも少なからず来韓しているという。
 そしてお金目当ての結婚が問題になっている。K氏の知人もフィリピンからお嫁さんをもらったが何かと故郷への送金を催促される。しかも毎月韓国で出稼ぎしている兄のところに数日間泊りがけで遊びに行く。調べたら兄ではなく夫であり彼女は二重結婚していた。
元中国人花嫁たちの率直な声を聞いてみた
 8月12日。珍島の珍島郷土文化館の公園でテント設営。夕刻公園を散歩していたアラフォー女性2人。2人は筆者を韓国人と思ってハングルで話すがどうも発音がおかしい。筆者が自分は日本人で韓国を自転車旅行していると話すと、彼女たちは中国人だと明かした。
 久しぶりに中国語でおしゃべり。2人は西安と延吉の出身。2人は別々に韓国に来た。ブローカーから韓国人の結婚相手を紹介されて支度金をもらって韓国に来たという経緯は同じだが。延吉には朝鮮族が多数住んでいるが朝鮮族ではなく2人とも生粋の漢族とのこと。
 男尊女卑の韓国社会は男女完全平等の共産中国とは真逆であり苦痛だったようだ。そしてお嫁は旦那の両親に仕えるという封建的家族制度に嫌気がさして来韓後数年足らずで離婚。すでに韓国籍を得ていたので韓国に留まり、当時盛んであった中国との貿易関係の仕事をしてかなり稼いだらしい。その仕事を通じて2人は知り合ったという。
 韓国のパスポートを持っているので中国に自由に帰省できるし海外旅行もしているという。どうも最初から国籍取得目的で国際結婚したようだ。やはり中国女性は逞しい。
 これまで何人もの国籍取得目的で欧米や日本など先進国の独身男性を狙っている中国女性に遭遇してきたので2人の話も腑に落ちた。以前インドネシアの景勝地で日本のお金持ちの農家の1人息子を紹介してと中国女子から依頼されたことを思い出した。
政府による外国人妻への手厚い支援
 上記のK氏によると韓国政府は外国人妻を迎えた世帯に対して多文化家族として補助金を交付している。子どもの教育費用などにも補助している。韓国の一般市民からは逆差別だとして批判が出るほど外国人妻を優遇しているという。
 韓国政府は日本同様に移民導入には依然として慎重であり、少子高齢化対策の一環として外国人花嫁優遇政策を実施しているとK氏は解説。
 上述の英語補助教員の米国人カップルによると光州市郊外の農村でもアジア系のお嫁が増えており、『お金で買われた一種の人身売買』ではないかと彼女たちの人権を心配していた。外国人妻問題も多角的な視点から考えなければならないようだ。
2023年11月12日
従軍慰安婦は過去の問題ではない、現在進行形で歴史の拡散
〔李氏朝鮮の太祖李成桂の出身地である全州市の観光名所豊南門の門前広場に設置された慰安婦少女像〕
 最近慰安婦問題が日本ではあまりニュースにならないので日本人にとり従軍慰安婦問題は既に過去の出来事として風化しているように思われる。しかし自転車にテントを積んで80日間韓国を旅して従軍慰安婦問題は徴用工問題や福島原発処理水問題とともに現在進行形であることを痛感した。
 筆者が最初に慰安婦少女像を意識したのは全羅北道益山市の駅前広場である。慰安婦少女像は町の中心地の否が応でも誰もが目にする場所に設置されている。観光地では著名な観光名所に設置されている。そして碑文はハングルと英語で記されているケースが多い。すなわち外国人観光客へ訴求しようとする意図が明確である。
 その碑文に『日本軍に連行ゆうかいされた』abducted by Japanese army、とか『性奴隷となることを強制された』forced to be sex slaveというような解説が記載されている。観光地の公共の場所に堂々と設置されていれば、普通の外国人観光客はそれを歴史的事実だと受け取るだろう。
 『慰安婦像大図鑑』という本には韓国全土の155体の慰安婦少女像の写真が収められているという。観光地では全州市の豊南門前広場、済州島の牧官衙、木浦近代歴史博物館前などで筆者も目にした。しかも大半は公有地であることから地元自治体の了解の下に地元市民有志による寄付で建立されている。官民一体となって慰安婦像が増殖しているのだ。
 そして慰安婦像には日本のお地蔵さんのように四季折々の花が手向けられ、さらに衣服を着せられていることが多い。つまり建立したあとも地元の人々が心を込めてケアしているのだ。さらには各地で徴用工像の建立も始まっている。
済州島の抗日博物館、従軍慰安婦の公式的解説文
 8月15日。済州島自然民俗館、国立済州島博物館。ともに日本植民地時代についてはステレオタイプの展示と解説だった。日本支配の苛烈さ、それに対して勇敢に独立運動に殉じた地元の英雄。
 午後4時頃、済州抗日記念館に到着。日中は地元の子供たちを集めて抗日独立運動をテーマとしたお絵描き会を催したようだ。館内に稚拙だが勇ましい作品が展示されていた。2階に上がると従軍慰安婦のコーナーがあった。
 ハングルと英語で『日本軍により朝鮮人少女20万人が強制的にアジア各地に連行されて慰安婦として日本軍兵士の性奴隷として働かされた。そして日本軍は敗北して撤退するときに犯罪行為を隠ぺいするために大半の慰安婦を殺害した』と解説していた。日本軍の強制連行 20万人 性奴隷 隠蔽のため殺害という4点について、当然のことながら日本政府は史実に反するとして外務省のホームページなどで否定している。しかし韓国では日本政府の見解・抗議なぞは一顧もされていない。
 この4点セットがキーワードとして慰安婦少女像とともに韓国のさまざまな博物館・記念館などで繰り返し強調されている。これは挺対協やその後身としての正義連の創作したとも言われるストーリーである。こうしたストーリーが執拗に繰り返された結果、今では韓国一般市民の間に史実として認識され広く共有されている。
 長期にわたり挺対協及び正義連を主導してきた尹美香氏は運動を巡る資金流用や北朝鮮との関わりなどの不正・不法行為により有罪判決を受けた。そして彼女らが実際は元慰安婦を利用した金儲けいあんふビジネスをしていたと当事者である元慰安婦から訴えられている。
 しかし尹美香氏とその団体が捏造したストーリーは既に韓国社会に信仰されており彼女の不正・違法行為が明らかになっても、韓国社会に根付いた信仰は揺るがない。韓国社会では反日=正義であり日本の旧悪を糾弾することが愛国者であるという反日教育の結果として、史実が定かでなくても日本を糾弾する目的に都合がよければ、容易に受容される残念な精神的土壌がある。
慰安婦問題の解説の本文と慰安婦募集の新聞広告
 済州抗日博物館の上記解説文の近くに3~4枚の新聞広告の切り抜きが展示されていた。ハングルと英語で小さく注釈が付いている。戦前の新聞は漢字とハングルの混合文なので筆者にも理解しやすい。
 それらは太平洋戦争中に従軍慰安婦を募集するために斡旋業者が出した新聞広告だった。内容は高給保証(基本給与額+ボーナス)、前渡し金相談可、勤務予定地などを具体的に提示。韓国の民間斡旋業者が高給や前借金で釣って大々的に募集していたことが一目瞭然である。日本軍が強制連行をしたと解説する一方で、韓国の民間業者が公募で若い女性を集めていたという明確な証拠であるにもかかわらず、それに対しての記述はない。
 済州抗日記念館は公的な施設であり抗日運動で犠牲になった済州島の英雄を祀っている立派な廟もある。そんな立派な公的施設で博物館の学芸員や管理責任者が解説文と募集広告について気づかないということがありうるのか。
 館内に10人以上の職員がいたが、これについて尋ねると「分からない」と逃げ腰であった。面倒なことには関わりたくないという雰囲気であった。
〔木浦の観光名所である旧日本人街の東洋拓殖会社木浦支店の脇に新たに建てられた徴用工像〕
 75歳の男性は「日本は慰安婦問題・徴用工問題などで数々の蛮行を行った。ナチスドイツよりも酷い行為を行ったのに韓国に対して賠償も謝罪もしない。ドイツ政府は戦後被害国に対してナチスの罪を認めて謝罪と賠償を果たした。それゆえドイツは世界から尊敬される国家になった。他方で日本は過去の歴史を反省していないのでアジアの国々から信用されない」と罵詈雑言を飛ばしながら日本を批判した。
 実はこのドイツと日本を対比する論法は過去何度も韓国の人々から聞かされている。何度も同じ話を聞かされるので具体的には記述していないが歴史認識の議論では必ず日本とドイツを対比して批判するのは常套だ。
 旧日本軍とナチスを対比することに根拠がないし、ナチスによるホローコーストという犯罪行為と日本による朝鮮の植民地支配を比較することに日本国民の大半は当惑するだろう。しかし韓国人のほとんどが共有している歴史認識では戦前の日本とナチスドイツは同類同罪なのだ。
〔木浦の旧日本領事館は1910年築。戦時中は市役所として使用され防空壕が掘られた。現在も残る防空壕跡には防空壕を掘る際の朝鮮人労働者と監督する日本人を再現した銅像が展示されている〕
慰安婦問題、元財閥企業グループ経営者の冷静な反応
 8月22日。済州島南部の海辺の公園で2人組の60代後半の男性から声を掛けられた。2人は地元出身の幼馴染。1人は地元の網元で漁業組合の幹部、もう1人は財閥グループの元経営者。韓国の濁酒であるマッコリを飲みながらハングルで歓談。
 そのうち元経営者は「貴方は慰安婦問題についてどう考えるか」と単刀直入に聞いてきた。微妙な話なので一瞬思案していると「comfort womanのことです」と英語で補足した。相手が2人とも地元の名士であり信頼できる人柄であったので、筆者は咄嗟に自分が知っていることをすべて伝えて相手の反応を見ようと決心した。複雑なテーマなので英語で元経営者に話した。
 第1に慰安婦は朝鮮人、中国人、台湾人、フィリピン、インドネシアなどだけでなく、多くの日本人もアジア各地で慰安婦をしていたことを知っているか尋ねた。元経営者はハングルに翻訳して網元に伝えた。網元は初めて聞いたと驚いていた。筆者は当時の日本の農村は貧しくお金のために慰安婦となった少女が少なからずいたことを説明。
 第2に日本軍が朝鮮人や他のアジアの女性を強制連行したことはなく、各地の民間業者が新聞広告などで募集したことを説明。そして民間業者が仕事内容を看護婦だと偽ったりして少女たちが慰安婦の仕事を理解しないで現地に送られたケースもあったと補足した。いずれにせよ親が前金を受け取って娘を売るというケースは日本でも朝鮮でも多かったと説明。網元は大きく頷いた。
 第3に慰安婦たちは受け取ったお金の一部を軍事郵便制度により郵便為替で故郷に送金していた。朝鮮や台湾の各地には日本と同様の郵便局があったので郵便為替の取り扱い記録は残っている。慰安婦は性奴隷ではなく対価を受け取っていたことが郵便為替記録で証明されている。網元氏は感心したように元経営者の言葉にうんうんと何度も頷いた。
 第4に日本軍が敗走するときに非道行為の証拠隠滅のために朝鮮人などアジア出身の慰安婦を虐殺したというのは韓国の慰安婦支援団体の作り話である。支援団体は20万人という過大な人数が強制連行されたと訴えているが実在する元慰安婦が余りにも少ないので虐殺されたとしてつじつまを合わせていると専門家から指摘されている。
 元経営者は筆者の話した論点は既に知っていたらしく丁寧に淡々と翻訳して網元に伝え、網元氏も確認のために若干の質問をしたのみであった。網元氏は聞き終わってから筆者のコップになみなみとマッコリを注いだ。
慰安婦問題、論客の事業家の反応
 9月13日。ソウル近郊の河南市。コンビニのオーナー一族の英語上級者の事業家45歳と遭遇。彼はかなりの論客であり慰安婦問題について筆者の見解を求められたので上記の済州島地元名士に語った論点を披露した。
 彼は筆者の論点を俄かには信じられないようであった。彼が長年史実であると信じてきた韓国社会で流布している通説と筆者の指摘の乖離が余りにも大きく困惑している様子だった。しかし軍事郵便を利用した郵便為替送金は少なくとも一部分が事実であろうと認めた。また戦前は韓国の農村では女子に教育は不要とされていたので満足に学校に通っておらず字も読めず悪い業者に騙されて渡航したのではないかと彼は推測した。
 さらに「なぜ戦後40年も経過してから市民団体により慰安婦問題が提起されたのかモヤモヤとした疑問を感じるという。なぜもっと早く問題提起しなかったのか。事実を確認しようにも遅すぎる(too late)」と彼は天を仰いだ。
2023年11月19日
韓国中高年のウェルビンwell-beingなライフ・スタイル
コーヒーショップが乱立、カフェ・チェーンの急拡大
〔仁川市郊外の低湿地帯を埋め立て高層マンションを建設している〕
 9年前にも釜山を起点に韓国一周自転車キャンプ旅をしたが、今回9年ぶりにソウルを起点に韓国一周して最初に気づいたのはカフェ、コーヒーショップの大増殖だ。スターバックス、エディア・コーヒー、ツーサム・プレース、コンポーズ・コーヒー、トムアンドトムス・コーヒー、ハリス・コーヒーなどが全国展開している。ちなみにハングルではコーヒーはコピ、カフェはカぺと表記・発音される。
 ソウルなど大都市や観光地は当然としても地方でもまさに雨後の筍のように新しい店が並んでいる。そしてコンビニでもアイスコーヒー、アイスカフェラテなどが飛ぶように売れている。韓国グルメのブログによると、カフェにおける国別コーヒー売上高では米国、中国に次いで韓国が世界第3位であり韓国人のコーヒー消費量は1人年間500杯らしい。このデータの真偽のほどは不詳であるが、さもありなんと思われるほどのカフェの乱立ぶりである。カフェ・コーヒー文化こそが韓国の過去9年間の変化のシンボルではないか。
過去20年の間に韓国の町の様子で変わったことは
 今回の旅行で在韓20以上の2人の日本人女性に偶然出会った。忠清南道在住のKさん、全羅北道在住のHさん。お2人とも韓国人の旦那さんと結婚して韓国に渡り幸せなご家庭を築かれている。
 2人が奇しくも指摘したのがカフェ、コンビニ、ファーストフードが20年の間に全国展開されてライフ・スタイルが変化したこと。また現在ではどこにでもある自家製パン屋ベーカリー、コインランドリー、ペットショップは20年前には皆無だったとのこと。
 20数年前には考えられなかった友人どうしでランチを外食してカフェすることが韓国でもフツウになったとのこと。そして朝夕に洋犬を連れて散歩するのもフツウになったという。
 儒教的大家族制度の変化
 さらに2人が共通して挙げたのが韓国の家族制度と価値観の変容である。20数年前の結婚当時は男尊女卑の価値観が生きていた。2人とも男の子を生まなければならないという親族および世間からのプレッシャーをひしひしと感じたという。
 さらに2人の話をまとめると、儒教的な家族制度の下で嫁は夫の両親に絶対服従であり、口答えはおろか質問も許されない雰囲気だったという。そして気を遣うのが四季折々の年中行事。日本の正月やお盆やお彼岸などに相当する行事になると一族が集まるので準備に追われ、顔も名前も覚えられないほど大勢の親族に挨拶して神経を使った。当時は儒教の影響でご先祖様を祀ることが最重要且つ最優先という伝統的価値観が生きていた。それゆえ一族の墓参りは特に大きなイベントだったようだ。
 当時は毎日ご先祖様に捧げるお団子も自宅で作っていたという。ところが現在では夫の母親ですらお団子をスーパーで買って供えるようになり、ご先祖様の墓参りも年々参加者が少なくなり儀式も簡略化しつつあるという。
 こうして日常生活における儒教規範の束縛が緩くなり、他方で地方の町でもコンビニやカフェやファーストフードが普及するにつれて女性の友人どうしが連れ立って外食でランチしてカフェすることが許容される社会的な雰囲気が醸成されたとHさんは感慨深げに語ってくれた。
単身赴任生活を楽しむ57歳会社員の楽しみは63歳からの年金生活
 7月11日。工業団地が広がる平沢ピョンテク。ピョンテクには起亜自動車の主力工場があり自動車部品を運ぶトラックが日夜を違わず走っている。起亜自動車の広大な敷地の湾岸の反対側には現代製鉄の溶鉱炉が聳えている。
 ひょんなことからナム・チョル氏、57歳と知り合った。初対面で溌剌として颯爽としたスポーツマンという印象を受けた。折からの雨でテントの設営場所を探していたら、彼の住んでいるマンションの最上階の踊り場を提供してくれたのだ。
 ナムさんは仁川出身で家も家族も仁川であり、ピョンテクに転勤になり単身赴任している。工場の勤務時間は午前7時から午後5時まで。
 ナムさんは会社の卓球クラブに属しており対外試合や大会に参加して腕を磨いている。自転車も趣味といいマンションの部屋の壁にはイタリア製の競技用自転車が掛けられていた。日本円で100万円くらいの高級車だ。さらに奥の部屋にはトレーニングマシンが鎮座していた。そして最近は車にテントを積んで景勝地に行きソロ・キャンプを楽しんでいるという。そうしたことから筆者に親近感を覚えたらしい。
 63歳で定年となり退職金と年金が支給されると6年後を楽しみにしていた。運動や趣味を楽しみ健康的生活をエンジョイする人々をハングルではウェルビン・ジョクWell-beingぞくというが、まさしくナムさんはその一人であろう。
夜明け前から遊歩道や公園は中高年のウェルビン族で賑わう
〔高層マンションが林立するニュータウンを開発した不動産会社が造った河水公園〕
 韓国では海辺や河川敷や市街地にある公園の東屋にテントを設営してキャンプした。当初当惑したのが午前3時半頃から人の気配がすることであった。人が歩いてテントに近づいて来るような僅かな足音に緊張が走る。草木も眠る丑三つ時ではないが、午前4時前は真夏でも真っ暗である。
 悪い奴が襲ってくるのではないかと身構えて、即時防戦するために眼鏡をかけて懐中電灯とホイッスルを手に持ってテントの窓から周囲を窺う。注)ちなみにホイッスルは緊急時に助けを呼ぶために放浪旅では常に携帯している。すると老人がゆっくりと歩いてくるのが見える。年寄りの早朝散歩であることを確認してから安堵して再び寝袋にもぐるということが何度かあった。
 5時頃になり東の空が薄っすらと明るくなり始めるころには公園の遊歩道は三々五々と散歩する中高年の人々で賑やかになる。ランニングするグループも通る。公園の自転車専用道路はマウンテンバイクやレーサーに乗った中高年が颯爽と走る。
 日本でも朝の公園は中高年の姿が目立つが、韓国では健康増進活動に勤しむ中高年で早朝の公園や遊歩道は日中の何倍もの人出で賑わうのである。
なぜ韓国では整備された公園や遊歩道が多いのか
〔光州川の河川敷に並ぶ健康増進器具。昼前で暑いので人がいない時間帯〕
 80日間見聞した印象では韓国は日本に比較して大都市でも地方でも広い公園が多くて良く整備されている。遊歩道や自転車専用道も同様である。なぜなのか。
 一つには宅地開発において大手デベロッパーが手掛ける20階以上の高層アパートタワマンが圧倒的に多いことではないか。地方の人口数万人くらいの町ですら町の一角にタワマン群が固まって聳えている。それゆえ空いた土地に公園や遊歩道などを整備することが可能になるのではないだろうか。
 大邱テグやソウル近郊の不動産屋で聞いたところでは韓国人、特に若い世代では高層アパートアパト志向が強いらしい。日本では価格の問題もあるが東京近郊では建坪が狭い3階建ての戸建が主流であることと対称的だ。大邱の不動産屋はTVドラマで描かれる高層アパートのセレブなライフ・スタイルが影響していると分析していたが。
〔光州川の河川敷に並ぶ健康増進器具。昼前で暑いので人がいない時間帯〕
町の至る所に設置されている健康増進器具とベンチと東屋
 韓国を自転車に乗って走っていて気づいたのは、いたる所に設置されている健康増進器具と休憩するベンチと東屋である。街なかの小さな児童公園、交差点の脇、街路灯の下、歩道の横とかちょっとした隙間の空き地を利用して健康増進器具とベンチ・東屋が設置されている。自治体、町内会、ライオンズクラブ、ロータリークラブ、青年商工会議所、スポーツクラブなど、さまざまな組織・団体が設置している。
 朝夕の散歩の時間帯になると沢山の中高年男女が健康増進器具で熱心に体を動かし、ベンチや東屋で賑やかに歓談している。残念ながら日本ではさまざまな規制により公道や河川の近くではベンチの設置すら許可がおりないと町内会の役員から聞いたことがある。
中高年のウェルビン活動はサイクリング、パークゴルフと益々多彩に
 数年前にワルシャワでソウル在住の大手建設会社を退職した元土木技師70さいの朴氏と遭遇。朴氏によるとハイキングは中高年の手軽な活動として人気という。ソウルには中高年向きの多数のハイキング同好会があるようだ。筆者もソウル郊外の新院駅前のバス停にカラフルな服装の同好会御一行様を見かけた。
 さらに近年は中高年のサイクリングも盛んである。ソウル郊外の漢江サイクリングロードでは数多の60代70代のシニア男性のサイクリストに会った。彼らは一様に高価なマウンテンバイクやレーサーに乗りユニフォームや専用シューズもブランド品だった。
 驚い たのは9年前には全く見かけなかった中高年のご婦人サイクリストの出現である。韓国では自転車ブームで若い女性の颯爽としたユニフォーム姿は珍しくないが、最近ではややポッチャリ体形のご婦人方もユニフォームに身を包んで走っている。
〔洛東江の源流付近の河川敷のパークゴルフ場。早朝から中高年プレーヤーで賑わう〕
 そして中高年カップルに大人気なのがパークゴルフである。女性でも簡単にできるスポーツであり夫婦で参加できることが人気の原因らしい。洛東江ナクトンガンや漢江ハンガンなどの河川敷には自治体により安価の公営パークゴルフ場が多数整備されている。日の出前から中高年のグループが三々五々を集まり早朝のプレーを楽しんでいる。時折歓声が上がり和気藹々とした雰囲気が河川敷に満ちていた。
 儒教的家族制度の呪縛から解放されたご婦人方が韓国の中高年ウェルビン活動をカラフルに牽引していることが今回の旅で印象に残った。
2023年11月26日
韓国人の被害者意識の歴史認識
 今回韓国を旅行して違和感を覚えたのは韓国における特異な歴史考察の視点である。歴史的出来事を考察するときに被害者的立場から考察・分析するのである。歴史的出来事を当時の世界情勢から分析するとか、客観的な第三者の立場で考察するのではなく、被害を受けた当事者として歴史を再構築するのだ。
 日本による朝鮮の植民地支配については、当時のアジアを分割支配しようとする欧米列強の帝国主義という世界の趨勢には焦点を当てず、専ら日本の朝鮮統合に至るプロセスを不当・不法と断じる。そして日本の植民地支配がどれだけ酷く惨いものであったか被害者としての立場から朝鮮近代史を語るのである。
 朝鮮戦争については東西冷戦のなかで米ソの対立により引き起こされた代理戦争であり、その結果朝鮮民族は分断されたという言説は数多の韓国人から聞いた。そして漁夫の利で大儲けしたのが日本であると必ず付言する。
秀吉の朝鮮侵略だけを調査する歴史研究所
 7月27日午前。全羅北道の南原ナムウォンを見て回った。最初に南原城址へ。この城を拠点に朝鮮軍・明軍及び地元義勇兵が秀吉軍を迎え撃ったが多大な犠牲者を出して敗退。次に犠牲者を祀った万人義塚へ。広大な敷地に博物館のような建物が博物館ではなく文禄・慶長の役について調査・研究している歴史研究所であった。
 研究室に入ると英語を話せる女性職員が対応してくれた。研究所では9人の専門家が文禄・慶長の役について研究しており彼女は助手として資料の整理などをしているという。秀吉の朝鮮出兵だけを扱う歴史研究所があることにいささか驚いた。
秀吉の朝鮮出兵の今日的な研究課題とは?
 歴史研究所は政府系財団により運営されている。研究テーマは例えば秀吉軍の侵略前と侵略後の農業生産高を推計して経済的にどれだけ被害を受けて回復にどれだけ時間がかかったとか。
 秀吉軍の悪行・蛮行についての研究も重要テーマらしい。例えば侵略した日本軍が戦功を証明するために倒した将兵の耳や鼻を切り取って塩漬けにして日本へ送ったことは日本側の資料でも確認されている。さらに戦功を水増しするため日本の侍は生きている農民の耳や鼻を削いで日本に送ったため日本軍が侵略した地域では耳や鼻がない農民だらけであったということが韓国側の調査で明らかになったようだ。
 万人義塚の展示館は当時準備中だったが特別に観覧させてもらった。いずれ整理して秀吉の朝鮮出兵の全容を展示できるようになるらしい。展示館には秀吉軍が日本に連れ帰った陶工が薩摩焼の祖となったこと、さらにその子孫が薩摩焼の名跡である沈壽官を代々継承していることも紹介されていた。
〔南原の戦いで戦死した1万人のうみん ぎゆうへいを祀った万人義塚の正門毎年韓国陸軍儀仗隊が訪れてセレモニーをしている〕
南原文化院院長から聞く秀吉軍に拉致された一人の朝鮮女性の運命
 7月27日午後。南原市内の観光案内所で南原文化院の院長氏と出会った。彼は地元の高校の元校長先生という経歴。420年前に秀吉軍により連れ去られた一人の南原出身女性が高知県のお墓に弔われていることが高知新聞と南原文化院の共同調査で確認されたという活動成果を語ってくれた。
 この女性は秀吉軍に参加した小谷一族の侍に連れられて日本に渡り一族の領地である高知県で暮らしたらしい。亡くなると小谷一族の墓に葬られた。小谷一族の墓碑銘の調査で朝鮮南原出身という出自の女性の存在が確認された。関係者が高知新聞に女性の出自の確認を依頼。高知新聞が南原文化院に調査を依頼して出身地が確認できたという歴史秘話である。
 この連載で何度か登場している、日本の大学に留学した経験を持つ知日派知識人であるK氏の説明を紹介する。秀吉は明への侵攻を目標とし朝鮮王に秀吉軍の案内役を務めるように要請する親書を送った。K氏によると当時の朝鮮王は秀吉の親書の真意を確かめるために正副二人の特使を派遣した。特使の報告を聞いた朝鮮王は秀吉が本気で朝鮮・明への侵攻を考えていないと判断ミスを犯した。そのため防衛準備も不十分であった。
 しかし、秀吉軍に連戦連敗してピョンヤンまで侵攻された真因は当時の朝鮮の政治体制の欠陥や為政者の怠慢にあることは明白とK氏は指摘した。ところが韓国の歴史教育では秀吉軍による蛮行ばかりを強調して韓国国民の間に被害者感情だけを増殖している。これでは歴史に学ぶことはできないと批判した。
李氏朝鮮時代の庶民は為政者の搾取により栄養不足
 ソウルの街を歩くと韓国の若者が男女ともに背が高いことに気づく。20~30歳の平均身長で韓国人は日本人より男子で4センチ強、女子で4センチ弱高いというデータがある。戦前、つまり日本植民地時代には朝鮮人は日本人より背が低く痩せていたというから、韓国人は過去30年くらいの間に日本人を身長で追い抜いたようだ。
 K氏によると高句麗・百済・新羅の三韓時代には朝鮮人は中国の山東省人のように背が高かった。ところが李氏朝鮮の時代に庶民は王家と貴族階級に搾取されて満足に食べられず栄養不足で身長が伸びなくなった。それが戦後高度経済成長を経て牛肉など動物性たんぱく質を十分に摂取するようになって、三韓時代から継承されてきたDNAに栄養が加わり日本を追い抜いたという学説があるらしい。
 K氏によると韓国では日本植民地時代を批判して否定する余り、それ以前の李氏朝鮮時代を美化する傾向があるという。上述の学説が示すように李氏朝鮮時代は特権階級が民衆を搾取していた実相を歴史教育でも教える必要があると強調した。
 さらに興味深い話を聞いた。秀吉軍は5万人もの朝鮮人捕虜のうみんを連れ去った。しかし陶工などを除いて大半は特殊技能を持たず、日本に連れ帰った秀吉軍の侍たちは捕虜を持て余してしまった。その結果、大半の朝鮮人捕虜はポルトガル人などの奴隷商人に売られて、アジアやアフリカや欧州にまで送られたという。
 この大量の朝鮮人奴隷の供給により世界中で奴隷の売買価格が暴落した。そして現在でも南欧にはコレと呼ばれる朝鮮人奴隷の子孫がいるそうだ。
韓国にとり今でも日本は潜在敵国か
 韓国で市民の意識調査や世論調査をすると現在でも日本は北朝鮮に次いで二番目の潜在敵国という調査結果である。今回の韓国旅行中に韓国人に北朝鮮について聞いた限りでは北朝鮮を喫緊の脅威と感じている人はほぼ皆無であった。むしろ「北朝鮮は経済的に破綻寸前だから韓国を攻める余裕はない」「北朝鮮の核開発・ミサイル開発は米国を対象としたもので韓国を狙っているものではない」というような意見が多かった。
 日本に関しては「日本は軍事力を増強している」として基本的に日本を警戒している意見が過半だった。そしてTVニュースを見ていて気になったのが軍事面での「韓米協力」「韓米日の緊密な連携」というようなフレーズは頻繁に登場するが、「韓日協力」というフレーズは皆無であった。
〔益山市の郊外の春浦地区の抗日運動記念館の独立記念像。1945年8月15日の朝鮮人の歓喜を現わしている。傍らには抗日運動殉難者の石碑〕
韓国ではヒデヨシは残虐の代名詞、対日警戒論の源流は秀吉の朝鮮侵略
 大日本帝国が朝鮮を統合して植民地支配したことは日本人の誰でも認識しており、現在でも韓国人が怒っていることを日本人は理解している。ところが秀吉の朝鮮侵略について日本人は歴史の教科書に書いてあったくらいの認識ではないだろうか。
 韓国人にとり秀吉の朝鮮侵略大日本帝国の植民地支配と同様に1000年経っても恨み骨髄の大凶厄災なのである。35年ほど前にソウルの財閥企業本社で商談相手の部長がソウルタワーのある丘陵地帯を指して「秀吉の侵略ですべて焼かれて未だに禿山のままです」と雑談で話していたことを思い出す。9年前に韓国を自転車旅行したときも「韓国で河川の氾濫や洪水が多いのは秀吉によって森林が全滅したからです」と水資源公社のダム管理者から聞いたことがある。両方とも科学的にはあり得ないことだが、ネガティブなことを何でも秀吉軍の侵略に結びつけるのは韓国では珍しくない。
 そしてキリスト教徒の多い韓国でしばしば耳にするのが「秀吉は長崎で26人の宣教師・教徒26せいじんを磔にした。秀吉は神をも恐れぬ極悪非道の悪魔だ」という秀吉の人物評である。韓国で最も嫌われている日本人は豊臣秀吉であることは間違いないだろう。
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