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デッサン
 絵を描く技術の中には奥行きを表現したり、立体的に描く技術があります。
 これらは3次元の対象をどうやって平面の紙に表現するかを模索した結果生まれた技術です。これらを学ぶことで、奥行きのある私たちの世界を、2次元の紙の上に表現できるようになります。
 技術の例は、遠近法、キアロスクーロ(明暗法)、対象を幾何学で捉える、水墨画の近景・中景・遠景、などです。
デッサンとは何か?
 絵を描く人のほとんどが無意識の内に使っている「デッサン」という言葉はそもそもどのような事を指すのでしょうか?恐らく多くの人は漠然とデッサンは「絵を描く事」と、答えるかもしれません。ただ、「絵を描く」という事の類義語はいくつかあります。
 例えば他にも「ペインティング」「ドローイング」「イラスト」あるいは「素描」など。「絵」というものに共通する所はあれど、それぞれの行為に若干の定義の位置づけが変わってきます。
 今回はそれらを踏まえて「デッサン」という言葉について、自身の経験を振り返った上で記事をまとめていきます。日本画、油絵などの絵画に関するものだけでなく、アニメーション、漫画等などの絵を主体とするものを手がけている人にとって役に立ててもらえたら幸いです。
デッサン力はなぜ必要か?
デッサン力を培っている人とそうでない人の絵を見ると一目瞭然で、それがあると無しではデッサンの狂いがすぐに見て取れてしまいます。
 例えば、人物を描く際にも筋肉の付き方であったり、全体のバランスから顔の表情など、不自然に見えてしまったりしてしまいます。
 デッサンの教養がある事によって、その「不自然さ」という箇所を認識して修正を加えていく事が出来ます。ここで理解が出来ていないと、指摘されない分には自分で分かり得なくなってしまうので、そうでなければ第三者的な立場から指摘してもらう必要性が出てきます。
 デッサン力がある事で、より「自然」な表現をする事が出来、かつ多くの人の支持、納得を得られるような絵作りをする事が出来てくるのです。

デッサンとは本質を捉える事
 大きな枠組みの中でデッサンとは、自分が描こうとしている対象物に迫る行為だと言えます。すなわち、モノが存在している成り立ちを自分なりの解釈で読み取っていく行為に他なりません。
 もちろん、対象となるモノ(モチーフ)を見たままの形で描くという事が必然的な事ではありますが、そのモチーフが抱えている背景までも読み取る行為が、より理解を深める事が出来てきます。
 僕自身、予備校時代の講師の方に言われた事は、
 「デッサンを上達させたいのであれば観察する事が大事」
 という事でした。
 モチーフを観察するという事はすなわち、様々な視点から分析を繰り返す行為に繋がってきます。
 たとえばリンゴ一つをとったとしても、実際にデッサンをする際に地図記号のように丸を描いて棒を一本付け足すだけではリンゴをデッサンしたとは言えません。リンゴの構成であったり、リンゴが持つ特徴を意識し、それらを踏まえながら目で見たものを描き写していかなくてはならないのです。
 「リンゴは甘いが酸っぱい事もある」
 「リンゴは球体のような形をしているが実際には輪切りにすると5角形で構成されている」
 「有機的な形をしているため、中心線を引くと左右対称ではなく独特なねじれがある。
 など、リンゴに対しての観察をしていくと色んな発見をしていく事が出来ます。描き手の経験してきたことによって、作者にしか描けないものが出来あがてくるのです。
 デッサンなどとは無縁で普段の日常生活をしていく上ではあまり意識をした事が無いかもしれません。せいぜい、ダイエットの必需品だと思い込んだり、デザートやお菓子作りをする上での具材の一部として考えるくらいでしょう。
 一方でデッサンは画用紙に描き写す事で意味していくものなので、普段よりも刺激を得る事が出来、モノを見る目を養っていく事が出来るのだと思われます。
デッサンと素描
  デッサンはフランス語(dessign)である事に対し、日本語では素描と表記します。また、英語ではドローイング(drawing)となっています。
 これらは、物体の形体、明暗などを画面上に表現をする美術制作についての事を指します。平たく言うと、主にペンや鉛筆、コンテなどで描かれているものはデッサンと言えます。
 ただし、デッサン・素描は実際に明暗までを塗っていく作業など広い意味を指す事に対し、ドローイングは線だけで描かれる絵であるとも言えます。
 建築の設計図は線で表現をする事から「ドローイング」と用いられる事になります。また、一方でペインティング(painting)という言葉もあります。これはデッサンが線画を含むものに対し、ペインティングは絵の具で面を塗る作業での事を表しています。
 「ペインティング」よりも、「デッサン」という言葉の方が広い意味で使う事が出来るため、割合的には使用頻度はそれほど高くありません。
デッサンとイラストは違う!?
  一般的には「イラスト」という言葉が普及されていますが、正確には「イラストレーション」の略となっています。どちらかと言えば、日本人にとってはデッサンよりもイラストの方が馴染みが深いかもしれませんね。
 それはやはり文化的な所が大きく関係していると言えます。
 例えば、文化的に言えば油絵や水彩絵画などといった陰影に重点を置いているものよりも漫画や本の挿絵などといった、線画を主体とした絵の方が広く普及されています。
 日本では広く知れ渡っている漫画などは絵画というよりもイラストに近い立ち位置と言えるかもしれません。
イラストを描くにもデッサン力は必要
デフォルメを施されたイラストなどを見てもらうと、一見、陰影表現を主としているデッサンは重要では無いと思われがちではあります。しかし、現段階において世の中のほとんどの完成されたイラストというのはデッサンをきちんと成されているものであって、口を挟む隙間が無い程完成されていると言えます。
 それはたとえ3頭身などといったデフォルメされたキャラクターだとしてもデッサンの基本的な概念を抑えた上での表現領域となっています。
 基本的な造形を理解出来ていないうちからデフォルメされたキャラクターを描くという事は、
 あくまでも表面的なデザインとなってしまいます。
 例えば、物体の影の付き方を理解していないにもかかわらずイラストを描く事によって絵に統一感がなされなくなってしまう事に繋がりかねません。人物で言えば、骨や筋肉の付き方がおかしくて無理な方向に腕が曲がってしまっていたりと悲惨な結果に成りかねない事になってしまいますね。
 デッサンを理解するという事は言い換えると科学的な観点からのアプローチを施していくという事で、それは表現される絵の説得力を上げる事にも繋がっていきます。
 イラストは言うなれば現実にあるモノを簡素化して記号のようなモノとして位置づけられています。最近では中には写実的な表現に重きを置いたイラストなどイラストの定義というものが難しくなりつつもありますが、イラストに重点を置いた絵を描きたいのであれば写実的な絵を追い求める必要は無いという事です。
デッサンとスケッチとクロッキーの違い
  最後に、余談ではありますがこれらの違いについて自分なりの解釈をしておきたいと思います。先ほども言いましたが、「デッサン」は絵を描く際において線画から明暗、空間の描き込みなど、幅広く使われる事となります。
 一方で、スケッチとクロッキーに関して言うと、スケッチはデッサンをする上でのイメージを短期間で描き写していく事であり、クロッキーはコンテと呼ばれる細い棒状のクレヨンを使って大まかに描く事になってきます。
 両者に共通して言える事は、短時間の間に自分が描きたいものを描けるかという事です。
 多少、荒削りで雑な印象をもってしまったとしても、目的が正確な描写をする事ではないので、デッサン力を付ける際の練習にはなってきます。
 また、物事を単純化して考えを整理していく事も出来るので、デッサンとスケッチらに関しては別の描画法として捉えておくと良いでしょう。
まとめ
 デッサンについて一通り調べた事を含めて書き連ねていきました。
 普段、絵を描く際に無意識の内に使ってしまう「デッサン」という言葉に関して理解を深めていく事で、より深い表現をしていく事に繋がっていく事になってくるでしょう。
 意識しているのと、そうで無いのとではやはり思い入れも薄くなってしまう傾向があるので漠然とデッサン力を鍛えたいというだけでなく、こうした予備知識を含めた上でデッサンをしていく事によってデッサン力を培ってもらえたらなと思います。
デッサンの一般的な意味と内容
 一般的にデッサンという言葉はデザインや絵画、彫刻、アニメーション、建築など多くの分野で使用されています。
 日本で使われるデッサン[dessin]はフランス語で、同様の言葉には英語のドローイング[drawing]があります。
 日本語では[dessin]も[drawing]も[素描]と訳されます。主に[素描]は文語として使用されていて、人と話す場合は、デッサンまたはドローイングが使われます。
 このフランス語のデッサン[dessin]と英語のドローイング[drawing]は、比較すると意味に多少の違いがあります。
デッサン[dessin]
 素描、描画、図画、製図、見取り図、模様、意匠、デザイン、落書き、構想、輪郭
ドローイング[drawing]
 (軽く)引く、引っぱる、引き寄せる、引く事、引き出す事、(図・線を)引く、写す、(絵を)描く 、線描、線画、図画、図面、製図
 ※[drawing]は動詞[draw]の現在進行形です。
 一般的にデッサンとドローイングは、上に記した意味として使用すればよいですが、専門分野で使用するときには、二つの言葉の意味内容が変化する場合があります。
 専門分野で使用されるデッサンやドローイングの定義は歴史、地域、文化などが影響するので一義的ではないと覚えておいてください。
デッサンは思考するための言語である
 ここからは主に美術の分野におけるデッサンについて深く考えてみます。
 現在デッサンは、インターネットや絵画教室、本、カルチャー講座で学ぶことができます。
 その目的はさまざまだと思います。"絵が好きでうまくなりたい"という方は多くいると思いますが、"造形の基本を学びたい"という人は少ない方だと思います。
 また、絵がうまくなるためにはデッサンを学ばなくてはならないという強迫観念をもっている方もいるのではないでしょうか?
 そもそもデッサンの意味と目的は一体何なのか、自分なりに考えてみることは必要かもしれません。
 通常、美術におけるデッサンは、何らかの造形作品を制作するための修練の方法で、絵画の一分野です。
 また、デッサンの最終的な目的の一つはセンスを磨くことです。それは、洗練された色彩と形態を駆使して自分の感情や考えを生活や社会で表現していけることです。
 デッサンによって培われた作風、理論、技能などが、あなたの作品や仕事へ高められれば、作品を取り巻く世界の財産になることでしょう。
 しかし、2次元であるデッサンにおいてできることに限界があるように思われます。
 デッサンを学ぶことで映像作品や立体作品などに関することをそれほど多く学ぶことができるのか?という疑問です。
 しかし建築や立体を設計図として、映像やアニメーションを絵コンテとして平面上に表現することは可能です。
 平面は立体的なものや動きをともなう表現を簡単に誰にもわかりやすく伝える道具の一つとして考えることができます。
 それは寸法や時間のみならず、感情、思想さえも表現することが可能です。
 そのような平面のさまざまな情報は視覚に伝わり、個々の頭の中でイメージとして広がるものなのです。
 そして、イメージは3次元の生活の中で応用されていかれるものとなるでしょう。
 私たちは通常の生活の中で言語で考え、言語を駆使し、意見を言ったり、冗談を言ったりすることで生活を豊かにし、自分を表現しています。
 デッサンは生活を豊かにするセンスを高めるため、また自分を表現する作品を制作するための言語を育て上げてくれるものです。
 そのようなデッサンをすることは、表現したいものに達するための思考そのものといえます。
デッサンと文章の比較
 
文章 デッサン
統一されたテーマ、対象 統一されたテーマ、対象
単語、助詞、句読点 点、線、面、色
修飾語 質感、色相、彩度、明度
段落 色彩と形態
文脈 色彩と形態同士の関係、遠近感、量感、動勢
一人称、二人称、三人称、季節、時代 一人称、二人称、三人称、季節、時代
構成原理と心理 構成原理と心理
 例えば、文章を形成する小さな要素だと単語や助詞などがあります。それをデッサンでは点や線などとして捉えてみることができます。
 日記や小説、論文などの文章を書くときテーマがあり、それを表現するための要素である単語や文脈などが組織的に構築されて形成されていきます。
 これと同じようにデッサンではテーマを表現するための造形要素と組織的に構築する構成方法を学び、絵画などの作品を創作することが可能になります。
 デッサンは平面で造形要素を学びますが、立体作品へ向けた造形物を生み出すための考え方を身につけることも難しいことではありません。
 通常、彫刻や工芸を学ぶ上でも造形能力を養うためにデッサンが行われています。
デッサン力を高めるサイクルの例
  1. 表現したいことがある。センスを高めたい。
  2. デッサンをする。
  3. 造形の要素を学ぶ。
  4. 造形における心理に気づく。
  5. 表現するための構成原理を理解する。
  6. テーマや目標に向かった構成手法を手に入れる。
  7. 作品を創作したり、身につけたセンスを生活や仕事に生かす。
  8. 更に、表現するための能力、センスを高める。
 この中で最も重要なことは、あなたがデッサンをする目標です。
 絵画を描く目的でデッサンを学ぶのであれば、油絵や水彩、イラストなどの分野へどのようにデッサンを活かせるのか考え、自分なりの創作のテーマを育む必要があります。
よく使われるデッサンの言葉と定義
要素 構図、構成、認知現象、コントラスト、バルール、遠近法、心理的効果などたくさんあります。
コツ デッサンの要素を駆使していくことで、説得力、認識力のある描写を実現させることです。
ポイント デッサンの絵画空間を実現させるための的確な技法と構成手法の要点です。
技法・技術 デッサンの要素を駆使して描くために、画材や道具を使いこなすための方法です。
練習 自分のイメージ通りの表現を実現させるために、デッサンの要素を吟味して、デッサンの技法を磨くことです。
描き方 自分独自のデッサンの練習方法を確立していくのと同時に確立されていくものです。
デッサン力 独自のテーマや要求された課題のために、必要なデッサンの要素を吟味して、イメージ通りにデッサンを具現化できる技術、技法および総体的な描き方です。 inserted by FC2 system