日中首脳会談の焦点
2023年11月16日
 岸田総理大臣と中国の習近平国家主席の首脳会談がアメリカで日本時間の17日にも行われる方向で調整されています。APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議に合わせたものです。実現すれば、およそ1年ぶりとなる日中首脳会談でどんなことが話し合われるのでしょうか?そして成果は?解説していきます。(伊藤詩織、小口佳伸)
Q.日中首脳会談に向けて、水面下でどんな調整が行われてきたんでしょうか?
A.両首脳の会談が実現すれば、去年11月以来、およそ1年ぶりとなります。
 政府関係者の1人は、「今回の会談には中国のほうが積極的だった。経済の不調もあってか、焦りも感じた」と明かしました。
 岸田総理大臣は今回のアメリカ訪問への出発に先立って15日、記者団に対し、調整が進められている日中首脳会談について、「建設的かつ安定的な関係をお互いの努力によって維持していくという基本方針は変わっていない。さまざまな形で意思疎通を行っていきたい」と述べています。
今回、どんな首脳会談になるかは、両政府の高官同士の会談から見えてくる部分もあると思います。
 それが、先週、中国で行われた、秋葉国家安全保障局長と、中国の王毅外相の会談です。秋葉局長は中国側とやり取りを重ねてきました。
Q.秋葉局長が王毅外相と会談した際、どのようなことが話し合われたのでしょうか?
A.9日夜、およそ3時間半にわたる2人の会談では、首脳会談の実現に向けて意見を交わしています。
秋葉局長は、中国による日本産水産物の輸入停止措置の撤廃を求めるなど両国間の懸案について、日本側の主張を伝えました。
 さらに、イスラエル・パレスチナ情勢や、ロシアによるウクライナ侵攻など国際社会の課題についても意見を交わし、両氏は、引き続き緊密に意思疎通を行っていくことで一致しています。
Q.このときの中国側の反応はどうだったのでしょうか?
A.中国外務省は「双方が両国関係を健全で安定した発展の軌道に戻すよう努め、意思疎通を続けることで一致した」と発表しました。
 一方、会談のなかで王毅外相は、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水について、「核汚染水」と呼んだうえで「海洋放出や台湾、歴史などの問題について中国の立場と懸念を表明した」としています。
 そして「日本側はできるだけ早く、両国関係を改善する姿勢を具体的な行動で示すべきだ」と強調したということです。
Q.中国が福島第一原発の処理水の放出に反発し、日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことで日本の水産業への影響が広がっていますが、今回の首脳会談で成果は得られるんでしょうか?
A.日本産水産物の輸入停止措置などで進展が得られるかが焦点ですが、具体的な進展までは難しいという見方が大勢です。
 事前の調整でも中国は譲らない構えを見せたようです。
 政府関係者の1人は、「中国の振り上げたこぶしを1回の会談で降ろさせることはできないだろう」と話しました。
Q.一方、首脳会談に臨む中国側の狙いについて、どう見ますか?
A.中国は、建設的で安定的な両国関係の構築に向けて前向きな姿勢を示す一方、台湾情勢では日本が関与しないよう強くけん制するものとみられます。
台湾について、中国は、一歩も譲ることができない「核心的利益」と位置づけていて、習近平国家主席は、日本時間の16日行われたアメリカのバイデン大統領との首脳会談でも台湾の平和的な統一への支持を求めました。
 中国は、台湾情勢を「内政の問題だ」としていて、日本との首脳会談の場でも、「いかなる者も内政干渉は許さない」など日本が関与しないよう強くけん制するものとみられます。
 一方、中国は、両国関係の改善には意欲を示すものとみられます。
 中国としては、国内経済の先行きに不透明感が広がるなか、日中平和友好条約の締結からことしで45年となることも踏まえ、日本とは両国の経済関係を強化し、日系企業の投資を呼び込みたい考えを示すとみられます。
Q.会談では、ほかに、どんな議論が交わされそうでしょうか?
A.中国による日本産水産物の輸入停止措置のほかには、沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題、それに相次ぐ日本人の拘束事案などが話し合われるとみられます。
岸田総理は会談で、両国間の懸案への日本の立場を重ねて主張する方針です。
政府関係者は「事前調整の段階で、中国側は『譲れないものは譲れない』という姿勢だった」と話していて、双方の主張をぶつけ合うだけになる可能性もあるとしています。
 一方、与党内からは、「トントン拍子とはいかないが、1年ぶりの首脳会談となれば、それ自体が成果だ」という声も聞かれます。
 岸田総理としては、およそ1年ぶりの首脳会談を契機に、首脳間の意思疎通を継続し、経済面などで協力できる分野を広げることで、懸案解決への距離を少しでも縮めたい考えです。
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