2023年11月21日 富岡悠希
 「悪質ホスト」問題は、ついに首相が国会で答弁するに至った。岸田首相は20日午後、衆院本会議の代表質問で同問題への認識を問われ、「返済のために売春するなどの事例があることを承知しております」と回答。
 質問した鎌田さゆり議員(立憲)は、政務三役の辞任ドミノや世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への対応などと共に悪質ホスト問題について、次のように尋ねた。
 「『悪質なホストクラブ問題』について。この問題は、客に支払い能力をはるかに超える数十万円、数百万円もの売掛金債務を負わせ、その返済のために風俗で働くことや売春を強いる点に悪質性があり、客の支払い能力をもとに信用を与える通常の売掛とは全く違います。
 人生を狂わされるケースや、被害者が自死に追い込まれる被害も出ています。職業安定法違反、売春防止法違反による逮捕も相次ぎ、消費者契約法のデート商法に該当する可能性があり、海外での売春にも拡大し、露木(康浩)警察庁長官は背後に犯罪グループが存在する可能性を指摘しました。
 私がお目にかかった被害者のご家族は、『自分の娘と同じ被害にあう人を無くして欲しい。自分の娘は社会復帰のチャンスは与えられないのか。助けて欲しい』と、切々と訴えておられました。
 総理、『悪質なホストやホストクラブ商法』は問題と思われませんか。どのようにして被害を防止し、被害者を救済するおつもりですか。私たちが来週にも国会提出予定の現行法を最大限活用しての被害防止のための理念法案『悪質ホストクラブ被害防止法案』を超党派で成立させるべきではないですか。見解をお伺いします」
 岸田首相は以下のように回答した。
 「悪質なホストクラブへの対策についてお尋ねがありました。いわゆるホストクラブの利用客が、高額な利用料金の売掛による借金を背負い、その返済のために売春するなどの事例があることを承知をしております。
 議員立法については、まずは国会においてご議論いただくものであり、政府の立場からお答えすることを差し控えますが、政府としても、関係省庁が一層緊密に連携をし、ホストクラブ従業員による売春防止法違反、職業安定法違反等の違法行為の取り締まりの他、風営適正化法に基づくホストクラブへの立ち入り指導、消費者契約法等の関係法令の周知、また相談対応の強化等の対策、これをしっかり行ってまいります」
 当時18歳の身内が悪質ホスト被害を受けたという西日本に住む60代女性Aさんも、ネットで岸田首相の答弁を見つめた。Aさんはホストからの被害体験や、相談先が見つからなかった苦悩などを複数メディアに語ってきた。
 そうした経緯を踏まえ、「今まで野放しだった悪質ホスト問題が国会で取り上げられ、さらに首相が承知しているとの認識を示したことには一定の意味がある」との評価を示した。
 そのうえで2022年4月の民法改正で成人が20歳から18歳になったことに言及。「特に18、19歳の若年女性が悪質ホストに狙われていることに意識を向けて欲しい」と続けた。
 そして、今後に向けての決意を添えた。
 「被害者家族として、気を緩めず現状を注視すると共に、世間の興味関心が薄れないようにしたい。同じ被害者や支援団体と密に連絡を取り合って動いていきます」
11月30日 NHK
 悪質なホストクラブを利用した女性があとから高額な料金を請求されるケースが相次いでいることを受けて、立憲民主党は国や自治体に相談体制の整備などを求める法案を国会に提出しました。
 悪質なホストクラブでは客の飲食代金を店やホストが立て替えて、あとから「売掛金」として請求し、利用した女性が返済のため風俗店で働かされたり、売春を迫られたりするケースが相次いでいます。
 立憲民主党は当事者などから聴き取りを進め、被害の防止に向けて対策を強化するための法案を衆議院に提出しました。
 法案では国が悪質なホストクラブによる被害の実態などを調査することや、国や地方自治体が高額な請求で生活に支障が出ている人やその家族からの相談体制を整備することなどを求めています。
 そして、法律の施行後、1年をめどに、被害の状況などを踏まえ、必要な場合はさらなる措置を講じるとしています。
 法案の作成に携わった塩村文夏 参議院議員は記者団に対し、「悪質なホストクラブは新しい悪質商法だ。立法府として対策をしなければならない」と述べました。
 立憲民主党は法案の成立を目指して各党に協力を呼びかけることにしています。
 法案提出に先立って、立憲民主党は会合を開き、ホストによって売春させられたという女性から聴き取りを行いました。
 女性は2年間でおよそ500万円を支払ったと説明し、「女性たちはマインドコントロールのような状態で、悪質なホストクラブの被害を受けていると気が付かない状況に追い込まれ、売春させられている。法律ができることで悪質なホストクラブの危険性が社会に伝われば、被害が確実に減る」と訴えました。
 立憲民主党は提出した法案を衆議院内閣委員会で審議したいとしています。
 内閣委員会で野党側の筆頭理事を務める青柳陽一郎氏は記者団に対し、「社会問題になっているので、与野党で合意して対策したいと思い、自民党の筆頭理事に連絡したが、『この国会では取り合わない』との回答が来た。非常に残念で驚いている。世論を動かして、今の国会で一歩でも前に進めたい」と述べました。
2023年11月30日 立憲民主党
 立憲民主党は11月30日、「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」を衆議院へ提出しました。
 「悪質ホストクラブ問題」とは、一部のホストクラブ等で、客に売春させた売上げ等から債権を回収することを前提に、客の支払い能力を超えた飲食サービスの料金債務を負担させ、料金債務について「売掛」(ツケ)を行うものです。通常、売掛は、相手の支払い能力を信用して行われますが、悪質ホストクラブによる売掛は、性搾取の手段として行われます。また、「売掛金」発生・回収の過程では、消費者契約法に基づき取り消せる契約や、売春防止法違反・職業安定法違反等の違法行為が介在することがあります。しかし、これまで、問題の所在が社会に知られておらず、適切な対策がなされない状況が続いてきました。
  本法案は、悪質ホストクラブ等の被害が拡大している実態にかんがみ、現行法で可能な対策を徹底推進させるための基本理念・国等の責務・基本的施策等を定めて、被害拡大に歯止めをかけるものです。基本的施策には、新たな社会問題である悪質ホストクラブ問題の実態を調査することや、相談体制の整備、被害者の社会復帰の支援、教育・啓発の推進、連携協力体制の整備を国等が行うことを定めています。
 法案提出後の会見には、被害者、被害者家族の方らが同席され、「自分は被害だと気付くことができたが、被害だと気付けず死を選んでしまう人がいる。この法律ができれば、被害に気付き相談支援につなげられる。若者の未来のために必要だ」と本法案成立への期待を語りました。
 法案提出者は吉田はるみ(筆頭提出者)、長妻昭、山井和則、柚木道義、青柳陽一郎、稲富修二、吉田統彦、坂本祐之輔、鎌田さゆり、早稲田ゆき、中谷一馬、堤かなめ、鈴木庸介、山岸一生、おおつき紅葉各衆院議員です。また、塩村あやか、杉尾秀哉、水野素子各参院議員も出席しました。  要綱   条文

12月7日 高橋洋一
 悪質なホストクラブによる被害の防止対策の徹底・強化を求める要請書を政府関係者に渡す立憲民主党の長妻昭政調会長(右から5人目)ら=11月17日、参院議員会館
 立憲民主党は、悪質ホストクラブによる女性客の被害を防ぐため、相談体制の整備や啓発推進を政府に求める法案を衆院に提出した。被害の実態調査や、被害に遭った女性の社会復帰支援、関係機関との連携強化の必要性を明記したもので、禁止規定や罰則を設けない理念法としている。
 悪質ホストクラブをめぐっては、警察庁も捜査を強化する方針を打ち出しているが、問題視されている高額の「売り掛け」を解決する方法はあるのだろうか。
 まず実態がどうなのか。現状としては女性客のホストクラブに対する売り掛けを巡り、さまざまなトラブルがある。女性客が支払い不能になると、その女性客が闇金で借金をし、反社会的勢力が売掛金を回収しに来たり、さらには売掛金を払えない女性客が売春や詐欺などに走ることもあるようだ。
 こうしたトラブルについては、基本的に現行法で対応できる。消費者契約法のデート商法に引っかかるものもあるし、払えないような売り掛けは公序良俗違反になるなどだ。もし客が売り掛けに本当に困っているのであれば、自己破産という手もある。
 ホストがクラブに代わって債務を負う場合もあるが、その場合もホストが自己破産すればいい。結果として、客やホストは保護されてホストクラブが大きな損失を負う。
 となると、ホストクラブは安易な売り掛け営業をおのずと控えていくはずだ。
 ホストクラブの原価率はあまり高くないので、売掛債権が回収できなくてもあまり大きな実害はないという事情も勘案し、客には自己破産を勧めるのがいいだろう。
 特に悪質ホストクラブほど逸失利益が大きく、ペナルティーになりうるのがいい。
  立憲民主党の案は、相談体制の整備や啓発推進など、一見すると人畜無害な法律に見える。禁止規定や罰則を設けない理念法としている点も法律への抵抗感を少なくしている。しかし、そうした法律が成立すると、必ずそれを担当する役所組織が作られる。組織ができると官僚組織の常として予算を獲得し、結果としてNPOなどの外郭団体に事務委任する仕組みができるだろう。いわゆる「公金チューチュー」のスキームの出来上がりだ。
 ネット上のインフルエンサーらにより、公金の使い方の問題が指摘されたが、立憲民主党案はそうしたものを助長する恐れがある。
 単純化すれば、今回の件は酒を飲んだツケの対策法が必要なのか、どうかだ。となると、クラブによる男性客被害も法の適用対象としないといけない。そんな話はこれまでも法規制なしで対応してきた。なぜ今になって法規制が必要なのだろうか。アベノミクスになって失業率が低下し、貧困ビジネスなどが先細りになってきたので、「公金チューチュー」をもくろむ人たちの新たな食いぶち探しなのだろうか。
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